「教育の目的は、他人と争って生き残りやすくなるためのものではない。
多様な価値観を持つ多様な人たちとそれぞれを認め合い
お互いに自由に生きることを目指すものである。」
横浜市の公立小学校でこのような理念に基づく生徒への関わりを長年実践してきた宮下章先生。
そんな宮下先生に、「先生にとってのしあわせとは?」をインタビューしました。

宮下先生が目指している教育の在り方とは?
それぞれが課題を持ち学習を進めていく、助け合い、学び合いを行っていかなければ「誰も取り残さない」SDGsは実現されない。
「個別最適化」が(支援が必要な子どもだけでなく)全員に行き渡るようにしなければいけないと思っている。
これからの時代は多様性の時代。子どもたちは多様な人々と触れ合い共存していく必要がある。
世界と繋がり共に幸せに生きていける人材を育てることをゴールとして取り組んでいる。
先生は、公教育の現場で理想とする教育を実践し、ストレスフリーな働き方をしているように見えるのですが、、、?
実際はそうでもない。笑
確かに現在教室の中、生徒や保護者との関係性においては全くストレスはない。
ただ、「#教師のバトン」にあるように、現場では細かい軋轢もあったりもする。
「みんな違ってみんないい」「ありのままで」というスローガンがよく教室にも掲げられているが、実際はまだそれが実現されていない。
子どもたちも先生たちもそう。同じルールの中で同じゴールに同じように向かわなければならないのが実情。
「型にはめなければならない」「レールの上をなぞっていかなければいけない」といった前提で進めているところが多い。
実際、公立の小学校の働きやすさに関してどう感じていらっしゃいますか?
長時間労働、保護者対応、新指導要領の複雑化が教師の休職率が上がる原因だとされているが、実際は仕事が面白くないのが原因の一つでは?と個人的に思っている。
子どもも同じだが、楽しいこと、好きなこと、面白いことであれば、もっと主体的に健康的に取り組めるのでは?
さまざまなしがらみで教師自身が自己実現できていないのが原因では?
子どもをしあわせにするというゴールは同じだが、それぞれの手法で取り組むことができたら、もっと働きやすくなるのではないか。

先生たちが自己実現できない環境を生み出している要因は何だと思われますか?
文科省にも教育委員会にも新しい時代に即した教育の在り方やその効果を裏付けるデータは示されている。
だが、一番のネックは教育現場にいる先生たちの「変わらなさ」。
旧態然とした姿勢や考え方が良しとされる環境がまだ多い。
先生方が受けてきた教育がそうだったということでしょうか?
何か問題があると減点方式で責任を追求される環境が一番の課題。
教師たちが自分の身を守るために子どもたちにルールを守らせる「管理」が強くなる傾向がどの学校でもあるようだ。
保護者側が学校に責任を押し付けているのも要因の一つ?
責任の一旦はあるかもしれない。だが実際には生徒に委ねる教育をしている現場には成功事例が多い。
生徒や保護者からはありがたいことに非常に良い反応を得ている。
理解されない状況の中で心がけていることはありますか?
年齢を重ねて「相手を批判しないこと」「相手の取り組みに関心を示すこと」を実践できるようになった。
地道な対話の積み重ねの結果、相手も耳を傾けてくれたり、こちらの取り組みに関心を持ってくれたりもする。
宮下先生の周りにも精神疾患による休職者はいらっしゃいますか?
校外でも個人的に発信したり、イベントを行ったりして、全国の先生方と繋がっているが、どこの学校でも起こっていることだと聞いている。
子どもたちも教師たちも一人一人の意見や考えが尊重されないことも多く、そのような行き過ぎた管理体制や、学校の硬直した在り方が原因の一端ではないかと感じている。
明文化されていないけれど「〇〇しなければならない」といった暗黙のルールが多くあるのが実情。
宮下先生の授業は子どもたちが夏休み廃止を訴えるほど楽しいそうですが。笑
宮下先生の取り組み「応え合い」とはどういった授業なのでしょうか?
「応え合う」=「レスポンス(反応)する」ということ。反応することは責任。
世界の誰かの思いに応えて行動を起こす、または起こさない。
対話を繰り返しながら、バランスをとりながら一緒に生きていこうね、ということを伝えている。
授業は「賞賛」と「改善」でうまくいくと考えている。
「できた」「わかった」「乗り越えた」を互いに喜びあうイメージ。
評価するのではなく応え合う。
そうすると場が温まってくる。温まってくると子どもたちは自然にチャレンジし始める。

先生のメンタルヘルスについてはどうお考えですか?
痛みを感じて立っていられなくなった先生が子どもたちの前に戻ったときの価値、復職する意味は非常に大きい。
僕自身も日々憂鬱を感じている。笑
すごく幸せだけど、、、やり切った感はある。
明日目が覚めなかったら憂鬱なことはなくなるな。と思ったりすることもある。
ただし、「憂鬱でなければ仕事じゃない」とも思っている。
憂鬱ということは軋轢があるということ。こっちもだけど向こうも嫌な思いをしている。
それは仕事をなしとげている証では?
一枚岩で王様みたいになっているのは不健康。気がつかないところで誰かがダメになっている可能性が高い。
憂鬱なのはむしろ健康。(大人の場合は)
「なんか引っかかる」「なんか完璧じゃない」「これでもダメなところがあるのでは?」
謙虚な姿勢が大切だと考えている。
自分のテリトリーに入ってこない人がいて、葛藤があり、嫌な思いをするのはごく正常なこと。
若い先生たちが潰されずに自己実現するには?
一概には言えないけれど、、、一つは外の人たちと繋がっていること。
学校の中の世界だけじゃなく別の尺度を持つこと。
基準が色々あることを知るだけで「ねばならない」がなくなっていく。
一つのことで潰されない。学びが広がる。広い視野を持とうとすることが大切。
今はコロナ禍で控えているが、外部の人を呼んで授業をしてもらっている取り組みはその一環。
宮下先生が考える先生にとってのしあわせとは?
自己実現と世界平和。
自己実現していることが世界平和に繋がっていること。
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宮下先生、貴重なお話をありがとうございました。
先生のように信念と理想を諦めず活き活きと働く先生が一人でも増えていくことを願ってやみません。

宮下 章(みやした・あきら)◎横浜国立大学教育学部卒業後、横浜市の公立小学校の教員に。教育実習当時から「目の前の子を楽しませる」をモットーに、ライブ感あふれる授業を展開。教員として今年で35年を数える。「応え合う」教室をめざし、アイランド型座席、立学などの取り組みを行う。学校外からも積極的にゲストティーチャーを迎え、100本以上の「世の中と繋がる授業」を行う。
宮下先生の取り組みについて詳しくはこちら↓
Forbes Japan【子どもたちは何のために「学校」で学ぶのか?学びの本質を問う 】
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